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【秘伝その20:転調もあるのじゃ】
実際の曲をアドリブソロで演奏するためには、その曲をあらかじめ下調べする必要があります。多くの曲では今まで書いてきたのような一つのキー(調)が続くとは限りません。むしろキーが変わる部分を含むことの方がほとんどです。このことを転調と言いますが、転調部分は楽曲のブリッジ(サビ)部分などに多く見られます。Softly as in a morning sunrise
‖Cm|Fm|Cm|Fm|Cm|G7|Cm|G7 |
|Cm|Fm|Cm|Fm|Cm|G7|Cm|Cm/Bb7|
*‖Eb |Eb |C7|C7 | Fm | D7 |G7 | G7 ‖
|Cm|Fm |Cm|Fm|Cm|G7|Cm|Cm ‖
この曲などは全体がマイナーキー(Cm)ですが、*印をしたところのブリッジ部分では平行長調であるEbに転調しています。ブリッジ後半のG7はEbキーでのV7であるとともに、次のCmへのドミナントでもあるといったように、うまく両方のキーでの意味が持てるような作りになっています。
これなどは比較的はっきりとした転調をしていますが、多くのジャズ楽曲では細かい部分部分でどんどん転調していったりします。つまり部分転調と呼ばれるものなのですが、その場合は個々のコードを追うことよりも、それらのコードが表すキーの変化を読み取ることが重要になります。
Just Friends の前半
‖;BbM | BbM |Bbm |Eb7|FM |FM |Abm |Db7 |
|Gm |C7 |Eφ/A7|Dm|G7|G7|Gm/C7|Cm/F7;‖
(Eφ=Em7b5)
この曲のキーはFなのですが、サブドミナントのBbMから始まっています。それが3小節目にはサブドミナント・マイナー(マイナーキーでのサブドミナント)であるかのように変化しますが、それと同時にAbmキーへのU-X(Bbm7-Eb7)擬似進行の役目も果たしています。
そのAbmも同様に次のDb7とセットでCへの裏コード進行となっていますが、到着地のCはCMではなくて、GmとともにC7、すなわちここでもU-X進行によりFキーで4あることを示唆しています。非常にトリッキーで凝った進行ですね。
もう少しスッキリした例も見てみましょう。
Alone Together
‖Dm |Em7b5/A7|Dm |Em7b5/A7|Dm |
|Am7b5/D7|Gm |Gm |
|Bm/E7|Gm/C7|FM |
|Em/A7|DM |DM ‖
この曲は少し変則的な小節数なのですが、例に挙げたのは前半の8、6小節の合計14小節部分です。
1行目は明らかにキーがDmですが、2行目はGmに変わっていますね。このGmはキーでDmのサブドミナント・マイナーですが、Gmのキーに一時転調したと考えることも可能です。3行目の最初の小節では次に来るのがAキーであることが示唆されていますが、全体のサウンドから行けばAメジャーであるよりもAマイナーであろうと予感されます。そしてそれがそのままGmにスライドし、C7を用いてFのメジャーキーに転調されています。4行目はいきなりという感じでDのメジャーキーに転調です。
キーがDmである時のサブドミナント・マイナーのGmと、キーがGmに変わった時ではどこが違うかお分かりでしょうか?
コードそのものの構成音には違いはありませんが、そのコード部分で使用できる音階が違ってきます。
Dm(D、E、F、G、A、Bb、C、)に対してサブドミナントマイナーのGmは(G、A、Bb、C、D、E、F、)ですが、キーそのものがGmと考えるならば、その場合のGmは(G、A、Bb、C、D、Eb、F、)となります。すなわちサブドミナントマイナーと考えるか、トニックマイナーであると考えるかの違いは、E音を使うか、Eb音を選ぶかの違いです。
このように実際の楽曲においては、そのコード進行部分をどう捉えるか、言い換えれば演奏者の解釈する余地というものが多く残されています。また別の言い方をするならば、楽曲のキーから見て特徴のある音使いが出てくるポイントを押さえておくことが曲全体をなめらかに歌うことに非常に役立ちます。
ところで以前も言いましたが、フレーズがフレーズとして聴こえるには条件があります。それは休符の必要性です。またフレーズ自身が持つリズムがはっきりとあることです。さらには強弱といったアクセントの存在です。
音(音高)のことを気にしていると、こういった最も基本的なことに対する注意がおろそかになりがちです。特にジャズのアドリブがビバップを基本とするならば、明らかに英語の会話のリズム、アクセント、イントネーションなどが反映されているのが分かります。日本語は音の高低で綴られるのに対して、英語では強弱が重要になり、だからこそボク達には8分音符でのロングフレーズが苦手なのではないかと思っています。
アドリブを練習する際にはこうした強弱のアクセントを付ける練習も兼ねて演るようにしてみて下さい。同じフレーズでもこうしたアクセントがきっちり付くと、見違えるほどメリハリのはっきりしたリズミックなものに変わりますよ。***おわり***
Written by たかけん