*** テキトー日記 (99/10/20) ***

或る夜のレッスン

サックスのレッスンを続けているI君の友人でアルトサックスを始めたというT君が新しくボクのレッスンに来ることになって、今夜はその第1回目。楽器はYAMAHAのYAS32Uというもので新品だからピッカピカ。

彼がアルトを購入したのは半年くらい前で、I君を通じてだいたい何をどう練習すればいいのかは伝わっていた筈だから、早速音を出して鳴らしてみてもらう。うむむむ、いくつか細かいコトを注意したのだが面白いコトに気が付いた。彼はギターをやっていたので音階やコードといった初歩的な知識は持っているし、耳も音階などには慣れているはずなんだけど、ひょっとしたらギタリスト(やピアニスト)ならでは?と思えるような落とし穴みたいなことがあった。

それはサックスのキーのことなんだけど、ここで言うキーとはドとかレとかを発音するためのそれぞれの音の押さえる場所のこと、あるいはその場所にあるトーンホールの開閉を担当する蓋のこと。で、かれは例えばドのキーを押さえれば自動的に音程は正しいドが出ると思って(信じて)今まで自己流で練習していたみたい。つまり音質の善し悪しは注意していたものの、音程のことは楽器に委ねていたみたい。

ボクの愛用しているチューニング・メーターサックスというのは慣れてくると良く分かりますが、ひとつのキーでも音程はアンブシュア(くわえ方)や息のコントロールによって結構幅広い音程範囲が出ます。逆に言うとその幅のある音程から常に正しいピッチの音程を鳴らしてやろうとしなければ、いつの間にかその楽器は音痴な音程を覚えてしまいます。ところが今までギターを弾いていた彼はサックスのキーをギターでいうところのフレットのように考えていたみたいで、その結果、高音は低く、低音は高く、鳴らしていることがはっきりしました。高い低いといっても5セント(1セント=半音の百分の一)やそこらではありません。もっとずっと大きく狂う。あまり狂うのでひょっとしたら楽器のせいかと思い、彼から楽器を奪って自分でちょっと鳴らしてみたが、うっひゃぁ、オンチ傾向だぞ。共鳴ポイントをジャストのピッチに持っていくべく、しばらく楽器と格闘する。だってあっちもそこでは鳴りたくないてな風に抵抗するんだもん。しばしの調教。

ある程度調教(ホントにこういう気分なのだ。野生馬に初めて鞍を載せるみたいなね)してから音階を歌うことがいかに重要かをお話しして、彼に何度か繰り返してトライしてもらったら、その内にみるみる改善されて行きました。また高音がスムーズに出ない悩みをお持ちのようだったのですが、これも低音がキチンと鳴ってこその高音であることをお話しして正しいピッチを保ちつつ次第にコントロールできる音域を広げていくというボクのいつもの伝授方法で試してもらうことにしました。なにしろ管楽器というのは倍音楽器でもありますから、倍音を安定させるにはその基音が重要という考え方な訳ですね。

口と手で楽器に演奏させるのではなくて、身体で歌ったものを楽器で音に変える、というボク流の表現なのですが、このことには確信を持っています。

つづく

戻る