英文で読んでもやっぱり三島文学の香りは失われてはおらず、それどころか日本語だと分かりきった気になって読み飛ばしていたような部分でさえも英語だとかえって丁寧に理解させてくれる。やっぱり物事を説明する事においては英語という言語が優れていると言われるのは本当のようだ。
まだ読み始めたばかりで今日は第二章までを読了した。そんな英訳本の金閣寺だけどひとつ気になった部分があった。それは原作の54p「昇り切った踊り場で鶴川が低い天井に頭をぶつけた。」の英訳部分である。これが英訳本では
「In the hall at the top, where religious dances used to be performed,
Tsurukawa hit his head on the low ceiling.」(49p)とある。
踊り場って”かつて宗教的なダンスをしていた場所”なのか?「踊り場」は「踊る場」なのか?これはあまりに直訳的ではないのか?と思ったので「踊り場」の語源を調べてみることにした。
すると「踊り場」という言葉自体が西洋文化が持ち込まれた明治時代以降のものらしいということが分かってきた。つまり厳密に言うと14世紀に建立された金閣寺には踊り場というものは無いのだ。たとえそう表現したいような場所があったとしても。
しかしもっと調べると『階段の先にある板の間で実際に踊っていたものが、現在の「踊り場」に通ずるとする説で、京都の芸子が踊っていたという踊り場も存在する。』というハナシもあるにはあるのだった。階段の先の踊る板場ねえ。
ささいなことなんだけど原作の「踊り場」を「where religious dances used to
be performed」と訳したのは妥当なんだろうか?ちなみに建築用語としての「踊り場」の英語は「Middle
Floor」だそうだ。フロアと言われてもなあ、それにふさわしい階段もあるのでしょうけどねえ。