小林多喜二が1929年に書いた「蟹工船」が今、若い人の間でちょっとしたブームになっていると聞いた。以前からプロレタリア文学の代表作として名高いことは知っていたが、一度も読んだことは無かったので、これを機会に読んでみようと大型の本屋に出向いて探したのだけど、置いてなかった。
市内に何箇所かある大型書店に行くたびに探したのだけど在庫があるのか無いのか分からず自分では見つけられなかった。では図書館はどうかと思って書庫検索をしてみたら、あるにはあるのだけど貸し出し中となっていた。むむむ、でもこんな古典が貸し出し中というのならやっぱり人気があるということではないか。
一昨日、ふらっと入った別の大型書店で目に留まったのがこれ。劇画「蟹工船」。でもなあ、劇画ではなあ、と躊躇しながらもパラパラと手にとって見たらナント、前半が小説の劇画で、後ろ半分は原作そのままが掲載されているではありませんか。もともとが雑誌「戦旗」に掲載された小説なので短編だったのですね。
劇画で情景のイメージを決められてしまうとイケナイと思い、先に文字の原書を読んだ。続いて劇画のほうを読んだ、いや、見たというべきか。案の定というかやっぱり文字のほうがアタマの中でイメージが膨らむし、情景描写も新鮮なものがあった。<湯桶のような煙突がユキ々と揺れていた><カムサツカでア死にたくないな……>うまく抜粋できませんが北海での過酷な労働現場の情景が良く伝わります。
しかしそれにしても、当時の資本家たちが労働者を搾取して、次第にその現場を北へ伸ばし、それがやがて満州や中国大陸へと侵出していく予兆を書いたこの小説が、今若い世代に支持されるというのはどういうことでしょう。やはり資本主義の搾取する側とされる側にハッキリと構図が決まってきたと言うことなのでしょうか。最近のもう一つの隠れた人気小説はカラマーゾフの兄弟だそうです。どうやらこれも同様の世相を映し出している結果のようです。