いよいよ父の状態が思わしくなくなってきた。ただ不思議なことに熱は収まり痰も出なくなって、どちらかと言うと穏やかな症状になってきている。しかし本人の体力はほとんど限界のようで残すは気力だけなのだけど、その気力も使い果たした感があって、今日はメガネも掛けず、すなわちあれほど好きだったテレビも見ないし、もちろん週刊誌も読まない。だいたい口を開かない。目も開けない。寝ている時間が多くなった。話しかけてもほとんど返事はしないが、こちらの言っていることは分かっているようで、返答の代わりに小さくうなづいたり、顔を横に振ったりはする。
一日中、寝ているか、黙って上を向いて目を瞑っているかの父だけど、今日、入院して初めて父が涙を流した。といってもまるで寝ているかのような状態は変わらないままなのだけど、看護士さんが「夜中の連絡先はここでいいですか?」と母に話しかけた時、それまでずっと寝ているような状態だったのに突然びっくりしたように目を見開いた。それからしばらくして目を瞑ったまま上を向いている父の右目から涙がこぼれた。どうやら自分の死期が間近なのを察知したらしい。その父の涙を見て、付き添っている母が嗚咽をこらえるようにして泣いた。
夜、自宅で葬儀社の人と打ち合わせをした。