by X10
西川美和、原案・脚本・監督の「夢売るふたり」を観てきた。西川監督のことは知らなかったのだけど、インタビューで本人が「映画作りは小さなことの積み重ねなので、〜」と答えているように、一見何気ないようなカットを積み上げて女性監督ならではの細やかな心理描写に成功している。
あらすじとしては、経営していた小料理屋を火事で失った夫婦が、店の再建のために結婚詐欺を働くというものだが、この映画のサブタイトル「人間最大の謎は、男と女」という言葉が表すように、現代の都会における男女間の機微や人情、そこに絡む金。どこまでが愛なのか、保身なのか。目的と手段はやがて交錯し始め、共犯である夫婦間に亀裂が走る。「男と女の心と性を揺さぶる」という監督の狙いが見事に伝わってくる。
主演のふたりは阿部サダヲと松たか子だが、なんといっても松たか子が演じる表面的には善良で優しい妻が、自分たちの目的のためには他の女を騙すことにいささかのためらいも持たないという内面的な悪女を演じるのが印象的だ。仲の良い若い夫婦が、自分たちの将来の目的のために、夫を他の女に仕向けて金を取る算段をする。そんな生活をしてなお彼女の表面的な善良さは損なわれない。そこが西川監督のこだわる日常的なカットの積み上げと、松たか子の演技力によるものだろう。
カットの積み上げというだけあって、この映画は137分と長い。しかし結末に急ぐ必要はない。展開される描写そのものが何気なく、日常的で、しかもドラマだったりするのだ。