*** テキトー絵日記 ***

2012/10/28(日)

クレメラータ・バルティカ

フィナーレでのアプローズ by X10

待望だったギドン・クレーメル率いるクレメラータ・バルティカのコンサートを豊田市まで出かけて聴いてきた。会場は豊田市駅前にある豊田市コンサートホールで、伊勢からは近鉄と名古屋市地下鉄を乗り継いで片道2時間半ほど掛かる。このホールは正面にパイプオルガンがあり、クラシック専門なのか緞帳などは無く、全体が木と石で出来ている美しいホールだ。しかし今日のこの素晴らしい公演内容に対して、キャパ1004席のホールは半分からいいとこ6割程度しか入っていないのは何とも残念なことだ。東京ではサントリーホールで4日もの公演があるが、きっとそっちは連日満席になっていることと思う。名古屋市ではなく豊田市が彼らの公演を買った心意気は大いに感じるが、この集客力はなんとも情けない。

さて公演内容だが、クラシックに疎いボクとしては今日のプログラムから内容を転記しつつ感想を書いてみよう。まずは第一部、
アルヴォ・ペルトによるパッサカリア(ヴァイオリンと弦楽合奏とヴィヴラフォンのために)
この曲はエストニア生まれの現代作曲家の作品で、いかにもクレメラータ・バルティカのオープニングにふさわしい感じがした。内容的にはかなり前衛だが、パッサカリアという形式に則って主題が幾度も変奏されていくところなどにはチャーミングに感じる部分もある。聴いていて不思議なリズムを感じたのでカウントしてみたが一体何拍子の曲なのか全然分からなかった。でもその不思議さがユニークでもあるし惹かれる要素でもある。
第一部の後半はミェチスワフ・ヴァインベルクの交響曲第10番で、これは日本初演ということだから聴いたことのある人はあまりいないのだろうな。作曲は1968年ということなので、これも現代音楽そのものだろう。事実、かなりの抽象性を伴ったもので、ボクにはいくぶん難解な曲に感じた。ここまではチェロ以外は全員が立奏。

休憩を挟み第二部は椅子が用意されシューマンのチェロ交響曲から始まった。第一部が抽象的な現代音楽だったのに対して、第二部は古典的なロマン派のサウンドがホールに響き渡る。第一部が緊張とすれば、この第二部は弛緩から始まったのだが、それもやがて続く後半の現代的な編曲に再び意識は研ぎ澄まされていく。

第二部後半は「グレン・グールドへのオマージュ」というタイトルで、バッハの作品による現代作曲家作品集が5曲演奏された。これだけ聞くと意味不明なのだけど、これはバッハの音楽に対してそれぞれの音楽家が独自の器楽法で編曲をした作品ということらしい。そして最初にそれをやったグレン・グールドへ捧げるということだ。内容はというと、
1.シルヴェストロフ「J.S.B.への捧げ物とエコー」
ヴァイオリンとヴィヴラフォンのエコーのために
2.ラスカトフ「前奏曲とフーガ ニ短調」
弦楽オーケストラのために
3.デシャトニコフ「パルティータからサラバンド ホ短調」
4.ティックマイエル「ゴールドベルク変奏曲より」
独奏ヴァイオリンと弦楽オーケストラのために
5.キーシン「ゴールドベルク変奏曲よりアリア」
独奏ヴァイオリン、クロタル、オーディオテープ、弦楽オーケストラ

とまあこうなのだけど、タイトルだけ聞いてバッハかと安心してはイケナイ。確かにモチーフというか主題はバッハなのだけど、編曲しているのは現代音楽家ばかりなので、最初は確かにバッハらしい弦楽の響きに心を和ませたりはするものの、次の瞬間には紛れもなく現代のサウンドに放り込まれたりする。なにしろ生のオーケストラが、わざと乏しいダイナミクスしか持たないオーディオテープと合奏したりするのだから。

まったくこの選曲はいかにもギドン・クレーメルとクレメラータ・バルティカではないだろうか。つまり古典的サウンドと現代音楽のミックス。しかもそれを演奏するのは老練で卓越した演奏力を誇るギドン・クレーメルその人と、バルト三国から集結したエネルギッシュな若き弦楽の精鋭たち25人、その彼らが織りなすサウンド。このミックスこそ彼らの素晴らしい音楽性の核となるものだろう。ちなみに今日のアンコールで演奏されたピアソラの曲も、彼らの旺盛な吸収力を感じさせる楽しく素晴らしいものだった。久々に感動したコンサートだった。

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